当医院で行っている矯正治療の方法は1年ほど前までは、ほとんどがスタンダードエッジワイズで
いわゆる4本抜歯を行って、治療したケースが八割を占めていた。
space closingが難しく、成人の症例では、正直なところ、保定期間をすぎて抜歯部位にspaceが開いて
しまった症例もある。
矯正専門の先生方が「美しい」という華奢な顔貌も、私にはなんとなく不健康に感じられてスッキリしないまま
「専門家がいわれるのだから、仕方がない」というあきらめた感じで臨床をすすめていた。
「非抜歯矯正」というのがあっても、トルクの掛かっていない「広がった」歯列を見せられたり、
「日本人の骨格では非抜歯は無理ですよ」という専門医の方々の言葉を聞くと「やっぱり無理なんだろうな」
という気持ちで小臼歯を抜歯していた。
私が矯正歯科を標榜して、「矯正治療をしよう」と思ったひとつのきっかけになったケースは、東京で勤務して
いたときに診た、ある有名な矯正専門医で治療を受けたという17歳ぐらいの女性だった。
金子先生の「わたしの臨床ファイル1」にも顔のでているお嬢さんだが、八重歯を気にして矯正治療を受けてきた
らしい。前歯はいわゆる「きれいに」ならんでいるのだが、右下の6,7番が「バッタリ」と舌側に倒れこんでいる。
7番の舌側傾斜を治そうとして6番も倒れてしまったらしい。口腔外科出身のつよみでコルチコトミーもできたので
「動かない歯に関しては私に分が有るな」と思ったのを覚えている。
それと同時に随分前に「下顎の7番が真横に(舌に向かって)はえているケース」に会ったことを思い出して、
なんにもできない自分に無力を感じていた。
どんなに補綴を頑張っても元が悪ければ自ずと限界がある。元が悪ければ元を治すしかないんじゃないのか?
カモフラージュしていても仕方がない、という思いが日増しに強くなっていった。
「筋機能療法」というトレ−ニングがあって、一時期熱心にやっていた。口腔周囲の筋肉の悪い癖をとって、
歯列の健全な発育をうながす、ということだが、話べたの私にはなかなかうまくいかない。時間ばっかりかかって
なかなか効果が出ないので困っていたが、「筋肉が歯列を作っている」という考えには逆らえないものがあったし
実際、一般の治療でも口腔周囲筋の不適切な動きに困ることは数多くあったので、治せるのなら「筋肉の治療」
というのは歯科医師として是非やってみたいことだった。
グリーンフィールド先生の「非抜歯矯正」という本があって「何かの勉強になれば」というぐらいの気持ちで
読んでいたが、「こんなケースが非抜歯でなおるのか?」と思うようなケースが提示してある。「大臼歯の直立」
「筋肉のトレ−ニング」というのが私には魅力的だった。
リップバンパーはまことに便利。はじめは軟組織に潰瘍をつくらないか、おそるおそるやっていたがトラブルは
そう多くはない。異常な口腔周囲筋の緊張もとれて、大臼歯も直立できるようになって、大きな問題のいくつか
は、このたったひとつの道具で解決できるようになった。
この治療法には賛否両論あることは知っているが、臨床には「自分の目で確かめたものを信じるのが大事」
と思っているので、矯正治療でも私はマイナーなところに入って行きそうだな、と予感している。
5 「非抜歯」という言葉に対しての専門医の先生の反応
「非抜歯」と言わなくても、矯正専門でやっている先生方のケースのうち20−30%は歯を抜かずに行われて
います。当院で過去に治療したケースも同じでした。ただ非抜歯を増やす方向の努力というのは
過去にされてなかったように思います。
アレキサンダー先生という矯正の大家がおられて、ボーダーラインのケースをみんな抜歯でやってみせた
ケースプレがあったそうですが、やっぱりそういう感覚は一般歯科医にはわからないですね。
その場で「非抜歯矯正」というのをさかんに批難していたようです。「巨匠」といわれるひとが感情的になるのは
何かあるからなんでしょう、と思う私はひねくれものでしょうか?
6 矯正学会を見てきて疑問に感じたこと
やたらと「咬合器に装着するのが大事」と強調していた人がいましたが、限界運動しか表現 できない咬合器
で何をしようというのか、私にはよくわかりませんでした。補綴のフルマウスリコンストラクションが流行った時代
に、今から矯正家は入っていくのでしょうか?だとしたら恐ろしいことですね。(私が「咬合器を使うのがいけない」
などと言っているのではない、というのは至極当然なことです。)
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